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グビジネスを俯瞰する。

以下の文章は「足と靴と健康協議会」(略称FHAの機関誌「とれゆにおん(TRAID’UNION)」(2009年3月発刊号。同協議会は日本の靴産業の企業による組織で、シューフィッターの養成や業界の研究、教育機関として活動しています。)に掲載されたものです。

はきものの復権をめざして
“虚”の修正と“実”への流れの中で
  

6- 1.“虚”が“実”に向かう流れが始まるのか

 

 アメリカのオバマが雇用の創出を計って“グリーン・ニュー・ディール計画”を打ち出したことは、これからの投資が“富”のためのものでなく“豊かさ”のものであることを表しています。
 自然を崩壊し収奪のかぎりを行って来た人類が、あらためてことの重大さに気づき、自然の破壊や収奪によらないで、市場経済社会が持続できる道を模索し始めた歴史上のエポックと云えます。
 それはエコロジーなエネルギー開発や医療や介護、教育、貧困などにたいする投資を通じて、人間が人間らしく生活できるインフラを整備するなど、カネがひとり歩きする“虚”の経済をこえて、人間にかかわる“実”に結びついたものへと市場経済が向かうという期待でもあります。
 たしかに自然への関心のたかまりは、自然を主題にした雑誌メディア(ソトコト、天然生活、くう・ねるetc.)が急に目につくようになったことでもわかりますし、ファッションを初め生活の多くの場面でナチュラルが題材になっています。
 しかし市場経済社会の中で永い歳月人間が求めつづけ慣れ親しんだものが、そう急に変わるとは思えないのです。
 現代文明を<無痛文明>と云った人がいます。(「無痛文明論」森岡正博著)それは要約すれば次のようなことです。
 「現代社会は豊かさと称して苦しみと辛さがないことが理想であるように考えている。苦しみを遠ざける仕組みが張りめぐらされ、快さに満ちた社会の中で人々はかえって喜びを見失い、生きる意味を忘れてしまうのではないか」
 「集中治療室で意識のないまま生かされている人間と家畜工場の家畜たちはよく似ている。日光や温度など人工的にコントロールされ、食料はベルトコンベアによって充分に与えられ、ひたすら食べて眠ることが彼らの生になっている」
 大不況が云われ生活の不安が大きく取り上げられる昨今ですが、現代社会で人々が求めてきたものは、苦しいこと辛いことのないラクで楽しい毎日です。
 楽しく刺激的で刹那的なファッションは、こうした現代社会の退屈で何か不安な気持にふさわしいものかもしれません。それは抽象的な限りない“富”を追い求める社会とつながっているはずです。

 

6章 つづく